ある中国人研究者が、「エージェンシー」という言葉の意味を確認していた。そうか、中国にもそれにあたる言葉がないのだろうかと思った。行動し、変化をもたらすエージェンシー(自由な自分・自己決定・勇気も含む)のある人を、エージェントと呼べると思う。苦慮しながらも間違った日本語の訳語をあてるよりは、そのままのエージェンシーの方が良い。
最近、エージェンシーについて考えさせられる機会があった。エイズ、SARS、エボラ、そしてCOVID-19と、米国が直面する感染症との闘いをリードしてきた感染症の専門家であるトニー・ファウチAnthony Fauci。彼のドキュメンタリー映画「Fauci」を見た時だった。
映画の中では、政府の対応に激怒したエイズ患者たちが、受け身の「ペイシャント」(中世の英語)から当事者としての「エージェント」に変わり、エイズ治療のプロセスに参加していく過程も描かれている。すでに有名だったファウチ医師は失敗をおそれず、誤れば進退を問われるような動きにでる。その大きな運動のうねりも、彼のキャリアの一部として記録されている。エイズで亡くなった患者たちを思いだしながら涙ぐむファウチ医師が、略語ではなく、わざわざ「心的外傷後ストレス症候群」と自己分析するところも、科学的かつ人間的で良い。80歳をすぎて、ファウチがセクシーだと言われるゆえんである。
COVID-19のワクチンを、ファウチ医師はすすめる。すでにワクチンを3回接種した友人たちもいる。同時に、 周辺にも私の身体は私のもの。マリオネットじゃないとワクチンを拒むエージェントも存在する。
現在、新型感染症の世界的な流行のために、エージェントとして生きるのが困難になっている。健康に命をつなぐのに、最低4つくらいのつながりが必要かもしれない。
- 1)人と人とのつながり
- 2)人と自然とのつながり
- 3)心と体とのつながり
- 4)エネルギーとのつながり
現在入院している人たちは、ペイシャントとして隔離され苦しんでいると思うと、とても気の毒だ。周辺では、離婚や家庭内暴力が増えた気がする。コロナ禍のヨーロッパでは、犬を飼う人が増えたり、わざわざ郊外の森に散歩しに行く人が増えたのも、これらのバランス良いつながりを回復するためだろう。
窓辺に花を置くと、陽のあたる方向へ頭を向き直すように。たとえ病気であっても、エージェンシーとして生きようとすると、良いことは見いだせると思う。だいじょうぶ。だいじょうぶ。